特別企画:外資系事務所で働くということ

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(第一回)フレッシュフィールズ

弁護士リクルーターの黒坂大です。この度フレッシュフィールズの木内潤三郎パートナーと中尾雄史パートナーに、自身のキャリア、外資系事務所で働くことについてお話を伺いました。


中尾雄史弁護士

東京大学法学部卒業、ニューヨーク大学ロースクール修士課程修了。1999年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2005年ニューヨーク州弁護士登録。2001年にフレッシュフィールズへ移籍、2008年パートナー就任。

木内潤三郎弁護士

慶應義塾大学法学部卒業、ニューヨーク大学ロースクール修士課程修了。1999年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。2004年ニューヨーク州弁護士登録。2000年にフレッシュフィールズへ移籍、2007年パートナー就任。


黒坂

本日はお忙しい所お時間を割いて下さりありがとうございます。早速ですが、なぜ外資系であるフレッシュフィールズでキャリアを積みたいと思われたのでしょうか?

中尾弁護士

私たちが働き始めた1990年代後半は、今のように大手5大事務所などなく、また、外資系も新卒採用はほぼゼロでしたので、渉外を希望する場合には、それなりの規模の事務所が10所程の選択肢という状況でした。私は最初日系の事務所に入ったのですが、8〜9割が国内だけで完結するトランザクションで、もっとクロスボーダー案件の多い環境で切磋琢磨したいと強く思っていたのを覚えています。移籍を決断した2001年頃は外資系事務所は黎明期で、正直なところ、日本人の弁護士にとってよい環境だなと思われた外資系事務所はフレッシュフィールズ以外なかったと思います。その頃のフレッシュフィールズには木南パートナー、岡田パートナー、岡本パートナー(現クリフォード・チャンス)、神谷パートナー(現スキャデン)といった今でも外資系事務所で活躍している弁護士が多く在籍していて、トップレベルの日本案件、グローバル案件に関与できるという期待感がありましたね。

木内弁護士

私も最初の事務所は渉外事務所でしたが、ダイナミックな国際案件に日常的に触れられるわけではありませんでした。留学も済ませて、一人前になってから移籍するという選択肢もあったと思いますが、移るなら早く移った方がいいだろうと思い、決断しました。新卒の就職活動では他の方々の意見を聞く余裕がなかったのですが、移籍活動の時は色々な人に話を聞いて、客観的に見てもフレッシュフィールズがベストの選択肢と判断し決めました。


黒坂:

お二人とも英語に対する不安はなかったのですか。

木内弁護士:

よく聞かれますが、入所前まで英語のE-mailもレターも書いたことがなかったです。ビジネスで英語を使うレベルには到底ありませんでしたが、他の人が出来るのであれば自分もできるはず、という気持ちでした。

中尾弁護士:

私は帰国子女でもないし留学経験もない、もうドメドメな人間でした。やる気さえあれば何とかなる、といった考えでしたね。入った時は本当に話すことも書くことも何もできなかったのですが、こと英語に関しては事務所に一から育ててもらったと感謝しています。


黒坂:

国際的なお仕事に興味をひかれたのには理由があったのでしょうか?

中尾弁護士:

外国に対して漠然とした憧れはありましたし、学生時代の海外旅行で異文化の人たちとの交流が楽しかったこともあり、外国人と一緒に仕事をしてみたいという好奇心がありました。

木内弁護士:

私はアメリカの高校に一年間留学しており、それがキャリア選択に強いインパクトを与えました。


黒坂:

外国で仕事をしたい、より刺激のある環境で仕事をしたいと希望する弁護士は多いのですが、誰もが国際的な環境で成功出来るわけではありません。御所のような環境で伸びる弁護士はどんなマインドセットをお持ちでしょうか 。

木内弁護士:

日本語や日本法、日本文化へのこだわりはあって良いと思いますが、固執しすぎると弁護士としての成長を妨げてしまいます。私たちはリーガル・スキルはどの国の法律であっても本質的には似ていると考えており、自分が慣れ親しんできた縦書きの法律でなくとも外資系・日系を問わず顧客のために法制度や言語・カルチャーの違いを乗り越え、取引を成立させるという姿勢が重要だと考えています。弊事務所で仕事をする醍醐味はそこにあり、私たちが顧客に提供している付加価値でもあります。

中尾弁護士:

法律事務所で成功する人の共通点は、クライアントの気持ちが分かるという点だと思います。日本のクライアントであれば似た環境で育っているので相手が言葉に出さずともニーズを感じ取ることが出来ますが、海外のクライアントには自分から積極的に思いを及ばせる努力が必要です。そんなプロアクティブなマインドセットが重要だと思います。これは弊所に限ったことではないと思いますが、言われたことを卒なくこなせるのは弁護士としては当然で、そこから相手の気持ちや考えを推測したり先回りするセンスや姿勢が大切です。


黒坂:

お二人は外資事務所でパートナーになられていますが、外資系特有の難しさはどんなところにあると思いますか?

中尾弁護士:

弊所に限ったことではないと思いますが、仕事に求められる完成度は極めて高いです。移籍して痛感したのですが、グローバルに展開する法律事務所の弁護士はとても優秀です。弊所ロンドンオフィスの弁護士は怖いくらいに皆が優秀です。そんな中で揉まれるのはいい経験ですが、日本法の専門家として受けるプレッシャーはとても大きいです。鋭い指摘が様々な角度からあり、それらの指摘に応える準備も万全でないといけません。所内の様々な弁護士の意見に耐えうるアドバイスを作り上げることで、結果的にクライアントに対しても様々な角度から考えた質の高いアドバイスが提供できるのだと思います。そこが難しさであり面白いところですね。

パートナーになるプロセスはグローバルなプラットフォームでやるので、日本のパートナーコミッティーだけで決まる日本の事務所とは違った大変さがあります。でもフレッシュフィールズでパートナーというとグローバル・パートナーしかありませんので達成感はあります。

木内弁護士:

グローバルからのマンデートである「日本マーケットの開拓」に応え、ファーム全体に貢献できると認められればパートナーになれるわけですが、そう簡単ではありません。自分がパートナーになる前、他の事務所にいる同世代との関係で自分のなにが差別化要因たりうるかを一所懸命考えていました。フレッシュフィールズで叩きこまれたスタンダードを維持しつつなので、決して楽ではありませんでしたが難しさの中にも充実感があります。


黒坂:

多くのアソシエイトは外資系でパートナーになるのは無理ではないかと考えています。

中尾弁護士:

パートナーシップは可能ですが、フレッシュフィールズには「こうすればパートナーになれる」という処方箋のようなものはなく、タイミングや巡り合わせが大きく影響します。これは大型化した日本の事務所も一緒だと思いますが、明確なルールがない以上、与えられたチャンスを大切に、全力を尽くすことでしか未来は開かれないと思います。

木内弁護士:

パートナーになるためには特定の分野のエキスパートであることも重要ですが、駆け出しの弁護士に「この分野に集中しろ」と言うのは無理な注文だと思います。幅広く好奇心を持ちながら自分にとってチャンスとなりそうな分野をとことんやる、というアプローチがより現実的です。気をつけるべきはフレキシビリティを忘れないということでしょうか。東京オフィスの創業メンバーだった木南もバンキングからレギュラトリーにも分野を拡げていきましたが、優秀な弁護士はフレキシブルです。自分の専門以外はやらないという姿勢ではこの事務所ではパートナーにはなれません。これまでやったことのない分野にも積極的にシナジーを見出す姿勢が求められます。


黒坂:

外資系事務所では日本国法をきちんと学べないといった声も聞かれますが、どう思われますか。

中尾弁護士:

私たちも良く質問されます。絶対量は日本の事務所の方が多いのは事実ですが、日本法弁護士として日本法の案件に携わっているわけですから、私たちの日本法プラクティスもトップレベルでないとクライアントは満足してくれません。案件には全チームを挙げて取り掛かるのですが、外国法弁護士の考え方など様々な角度からの分析によって戦略が固まっていきます。その突っ込んだ議論の過程を知っているので外国法事務所だけど日本法大丈夫か、という不安は少しズレた指摘だなと感じます。

木内弁護士:

昔から外資事務所へ行くと日本法が疎かになると言われているのは知っています。私はこのコメントには違和感があります。弊所では外国法弁護士とかかる日本法について徹底的に議論をするのですが、日本法を理解していないとまずもって議論になりません。クライアントに出せるレベルまで議論するには相当な日本法の知識が必要であり、日本法が疎かになるといった指摘は的外れだと思います。

中尾弁護士:

いつも掘り下げて議論していくので、私たちのアドバイスも単なる法的アドバイスを超えてクライアントの経営ストラテジーに関わるようなアドバイスになることも多くあります。ここが私たちの付加価値であり、先ほど申し上げましたように聞かれたことだけ答えるのではなく、よりプロアクティブなサービスになる所以だと思います。

木内弁護士:

まだ駆け出しのころ、私は外国法のシニアパートナーから頻繁に「コマーシャルに考えろ」と言われていました。この意味がよく分からず、試行錯誤を繰り返した事を覚えています。顧客のコマーシャルな課題や目標を理解したうえで日本法の精緻な検討、分析をし、解決策を助言するという経験を重ねることで弊所の弁護士たちは高い日本法の能力を獲得しています。


黒坂:

御所のフィーは高額だと聞いたことがありますが、クライアントが御所に戻ってくる理由は何だとお感じですか。

木内弁護士:

単なるリエイゾン・通訳以上の付加価値を提供しているからだと思います。私たちが間に入る場合、クライアントが気づいていないが現地のローヤーや相手方に質問されるであろう点もつめるようにしていますし、現地のローヤーからの助言も日系クライアントの目線で見て、「かゆいところ」を詰めてからクライアントに渡すようにしています。そうすることで結果的に無駄もなくなりますし、品質管理も出来ます。当然ながら自分たちが間に入らなくても大丈夫だな、と思う時もあります。その時はそう伝えますし、それでも依頼を受ける時がありますが、それは恐らく私たちが間にはいることで生まれる安心があるのでしょうし、仕事がスムーズだからではと思います。

中尾弁護士:

私たちが付加価値を提供出来ないと感じる場合、クライアントにはハッキリ伝えます。直接やった方が安く済みますし、多くの場合はクライアントもよく理解しています。


黒坂:

ワークライフバランスについてお教え下さい。

木内弁護士:

私たちの仕事は残念ながら先が読めないので、自分でオン・オフをやりくりするスキルも重要だと感じます。メリハリを付けないと、長期的には続けられないですからね。家族との時間・クライアントにとっての重要度・事務所にとっての重要度のバランスを考えながらやっているつもりですが、それぞれに少し(かなり?)我慢してもらっているというのが現実です。ただ、フレッシュフィールズのカルチャーは休む時は休むことを大いに尊重しているので、自分が休むと決めれば休みやすいです。早く帰っても休みをとっても、パートナーたちは文句は言わないです。

中尾弁護士:

そうですね。日本の事務所と比べると、かなり休みやすいし帰りやすいという環境はあると思います。あと、フレッシュフィールズは長時間働くことを奨励していません。もしアソシエイトで3000時間のビラブルを出したらパートナーは厳しく追及されます。何でこんなに働かせるんだと。誤解のないように申し上げますが、フレッシュフィールズでの仕事は楽ではないです。大きい案件が入ってきて、相手方が夜中の3時4時まで働いていたら、私たちも同じ時間くらいまで働いています。恐らく特徴的なのは仕事が一段落したら休もう、というカルチャーが徹底している点でしょうか。

移籍前の事務所では、ボスが帰るまで帰れないという雰囲気が強くありました。今は自分で電気を消して帰ることもあります。皆先に帰ってオフィスに誰もいないからです(笑)。

ただ、ジュニアの頃は忙しく働いた方が良いと思います。ダラダラ働くことに意味はないですけど、中身が濃ければ、働いた分だけ身になるのが若い時の特権ですから。

木内弁護士:

フレッシュフィールズには減点方式のマインドセットではなく、「日本人だ」「日本法の弁護士だ」「コーポレート分野だ」とかいった枠にとらわれずに、フレキシブルに自分のスキルを増やしていく、貪欲に新しい経験を求める、という人が合っていると思います。ここにいたからこういう人生経験出来たとか、こういうスキルアップが出来たと、大きな視点から捉える事も時には大切だと思います。

中尾弁護士:

恐らく日本の事務所でパートナーになるのも、今ではそんなに私たちと大差なく不確定だし難しいと思います。そんな中フレッシュフィールズにいる利点と言えば、次のキャリアステップを考えた時に選択肢が多いということでしょうか。これだけパートナーシップが不透明な環境ですから、渉外事務所に入る弁護士は色々なキャリアパスの可能性を考えておく必要があると思います。フレッシュフィールズでやるってことはグローバル・スタンダードでやるということなので、経験を積んでいくと英語だけではなくリーガル的な考え方や問題解決思考も国際的な環境でどんどん磨かれていきます。

木内弁護士:

そうですね。先日、フレッシュフィールズを去っていった方々とパーティーをしたのですが、だいぶ前に辞めた人たちも今はインハウスでいいポジションに付いている方が多かったです。彼らの多くが、振り返ってみると自分たちのコア・スキルはフレッシュフィールズ時代に培われたと言っています。

中尾弁護士:

パートナーになるのは運やタイミングなので約束できないですが、少なくとも次を探すときに一段上に行けるようなスキルや経験を持てるよう、私たちも対応しています。もちろん本人の努力に左右されるのですが、食い扶持に困るような弁護士にはならないです。


黒坂:

お二人の今後の目標があれば聞かせて下さい。

**中尾弁護士:**後続のためにも、私はアーリー・リタイヤメントしたいと思っています(半分、冗談ですが)。アーリー・リタイヤする弁護士は少ないので、早く私らに続く弁護士を育てて、60才になる前に引退できたらいいですね。

**木内弁護士:**私は子供が小さいのでアーリーは無理かな(笑)。

**中尾弁護士:**お父さん頑張らないとね(笑)。

**木内弁護士:**仕事は好きなので苦になりませんが、次の目標といえば後続の教育や事務所のマネジメントをより効果的に行なう事でしょうか。チャレンジ精神に溢れ次の世代を引っ張っていけるアソシエイトの方々に是非移籍を検討して欲しいです。

**黒坂:**本日はお時間ありがとうございました。

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